電子書籍の未来について考える(4/4) 生まれるビジネス

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これまで3回に渡って、電子書籍の現状・変化・未来について考察を続けてきたが、最後の回では、新たに生まれるであろうビジネスについて考察をしてみたい。電子書籍という市場はまだ生まれたばかりであり、新しいサービスや市場が生まれるチャンスがあちこちに転がっているはずだ。

市場機会はどこにあるか?

まずは、どの辺りにチャンスがありそうかをまとめてみたい。

市場を分類してみる
電子書籍市場には、ごくごく簡単に分類すると以下のようなプレイヤーが存在している。


基本的には上記のプレーヤーが中心におり、周辺にプロモーションや関連産業(電子書籍化のためのソフト開発者など)を立ち上げる事業者が取り囲むイメージだ。

また、市場でもざっくりと分類してみると以下の4つに分類できる。それぞれの収益性や競合度合いについても独断と偏見で検討してみると、何か大きなアドバンテージか新規性のあるビジネス・アイデアがない限りは、コンテンツか周辺産業で参入するのが得策のようだ。



今後のキーファクターは何か?
こちらも個人的な見解に過ぎないが、今後の電子書籍市場の動向を占う上で重要な点は、以下の2つだと思っている。

1. 海外勢の日本参入Xデー
Amazon、Google、Appleの動きで国内の企業は各種対応を迫られることになる。スマートフォンの覇権を握っており、リアル書籍最大の流通網を握っている、これら3社がどのタイミングで国内に本格的に参入するかで国内企業が取れるオプションも変わってくるだろう。

2. 国内出版社の動き
何といっても現状で、作家陣とのコネクションを保有し、大量のコンテンツを事実上独占している出版社は大きなアドバンテージを持っている。2011年は各社本格的に参入しはじめる年だろうが、戦略次第で業界図が大きく塗り変わることになるだろう。

新しいビジネスアイデア

ここからは、個人的に今後生まれるのではないか?と考えるビジネスについてピックアップしてみる。誰もが思いつきそうなアイデアばかりだが、これから立ち上がる市場では、先行企業が大きなパイを獲得できる。どこの企業が先に参入するかが注目だ。(誰かやりませんか?笑)


まとめメディア
様々なで電子書籍ストアが混在する今、それらをまとめて一覧で表示してくれる「まとめメディア」へのニーズは必然的に高まってくるだろう。デバイスフリーになれば尚更である。このサイトで購入書籍を検索し、購入する時だけリンクで飛ばせばいい。ユーザーは全ての中から検索したいのだ。

またその「まとめメディア」が、クラウドでストレージ機能を提供し、ビューワーも提供すれば、各アカウントのログを収集・解析することで、レコメンドを配信することも可能になる。

このような状況下では、ユーザーはまずこのサイトに訪問することになるため、入口メディアとして大きな価値を生み出す。各書籍コンテンツのDL数や読了率なども収集可能だ。大量のアカウント情報や書籍情報を元に、コミュニケーションツールとしての可能性も大きいだろう。
WEBではユーザーを囲ったものが、多くの利益を独占することができるわけだが、電子書籍ストアが混在している限りは、このようなまとめメディアが覇権を取るかもしれない。

また収益モデルは、アフィリエイトを主体とした広告ビジネスモデルであり、大きなシェアを獲得することで電子書籍コンテンツ市場の数%の売上を獲得することが可能。
さらには、アカウント(読者)数を武器に、アマチュア作家の囲い込みなど様々な派生ビジネスが考えられるだろう。

翻訳サービス
WEBの世界は、グローバルである。当然、海外の電子書籍を日本語で読むというニーズもあるだろう。紙の場合は難しくとも、インターネットの世界では翻訳さえしてしまえば一瞬で世界中に配信可能である。

この仕組みから、翻訳されていない海外の書籍に対して、一定数以上の希望者が集まれば翻訳して提供とするサービスは成立しないだろうか。

一定数のボリュームを事前に確保することで、翻訳コストを調達でき、翻訳後は、事前登録者への販売価格より高めの価格を設定して販売することで、そのまま収益となる。もちろん人気が出そうな作品は、予め翻訳して試読版を無料で配布するなどの手法を取ったほうが良さそうだが、それ以外にも売れる作品は大量に存在している。

当然、日本国内の書籍を海外に展開する方もどんどん出てくるだろう。
※精度の高い自動翻訳ツールが登場した段階で、必要なくなるが・・・

雑誌連動システム
電子書籍という概念は、本来雑誌にこそ向いているものだと思っている。毎週買いに行く必要はないし、ストックしたいという趣味性も少ない。分厚い雑誌を持ち歩くのは面倒だし、細かな記事や写真の集まりは、移動中にも読みやすい。

さて、こんな雑誌の中でもファッション雑誌に掲載されている洋服を、自分に着せてみせることができるシステムがあれば、とても楽しそうではないだろうか。
予め自分の写真を登録しておき、雑誌の中で気になった服をピックアップして選択するだけで、バーチャル試着ができる。気に入れば、そのままECサイトに遷移して購入することができる。

こんな仕組みがあれば、売れないと言われるファッション雑誌も売れるようにならないだろうか。またECサイトに対してはアフィリエイト収益も期待できる。出版社にとっては、大きな収益源に成長させることができると思うのだが、どうだろう。

当然、アパレルブランドにとっても強力な販売ツールになる。ユーザーがPushで検索するECサイトと違って、Pull型であるファッション雑誌経由で購入するのだから、いかに露出できるかが販売数に影響を及ぼすようになるだろう。
すぐに実現させたいシステムだ。


中古流通市場の開拓
絶対に出版社は認めたくない市場ニーズだが、BOOK OFFのデジタル版ができないだろうかという発想。古本の市場が小さかった時代に、BOOK OFFが登場して市場は一変した。同じように、各個人がYahoo!オークションなどのようなWEB市場で、過去に購入した電子書籍データを流通させることができれば、大きな市場になるだろう。

しかし、これには大きな問題がある。デジタルは中古という概念がないからだ。新品と全く同じ状態で転売が可能な商品であるため、ユーザーは当然中古で書籍データを購入することになる。となれば、新品は全く売れなくなる。これでは作家が儲からず、ひいては市場の健全な発展が阻害されることになる。

しかし、例えばだが、中古で流通させた場合にも、著作権料など一定の料率を徴収できる仕組みを整えれば、どうだろうか?
過去に新品で購入したユーザーは、ずっと保有しておくほどではないコンテンツを販売することができ、新品の価格で購入するほどではない作品をユーザーは安価に購入することが可能になる。
当然、著者には著作権料が一定比率で入ってくるため、市場の活性化にもつながる。

※再販制度が崩壊する電子書籍市場では、中古価格と新品価格が等しくなるインセンティブが働くため、価格差が出ないかも知れないが、ここの本質は中古市場が立ちあがることで、作家には大きな影響は出ないものの、新品市場と中古品市場での売買によって利益の分配が異なるという点だ。


日本全国のフリーパーパーをまとめて電子化
全国に無数に存在するフリーペーパー。全国に流通しているものもあれば、地域限定モノや、業種・業界に特化したモノ、趣味に特化したモノと、幅広いフリーペーパーが存在している。

これらを制作している会社や組織すべてが、もちろん大手企業ではない。
では全て(ほとんど)のフリーペーパーを一括して電子化して配信する企業が出てきてもおかしくはないのではないか?

フリーペーパー発行者からすれば、影響範囲が広まる点でメリットがあり広告獲得(発行コストの回収)に好影響であり、運営企業側は無料でコンテンツが入手できる点で大きなメリットがある。運営企業は無料で配信を行って、広告費で収益を上げればいい。
そしてユーザーは、無料で全国のフリーペーパーの中から、趣味・興味のあるものを選択して読めるのである。既にあってもおかしくないと思うのだが、どこかの企業さんはやらないだろうか。


電子書籍に関わる制作者の登録サイト
電子書籍化することで、作家や漫画家以外のアーティストが制作に参加することになるが、現状のマーケットにはそれらをマッチングする手立てはない。となれば、各種制作会社や個人単位が登録されたメディアがあってもいいのではないだろうか。

特にアマチュア作家などはコネクションがないだろうから、沢山の中から自分の好みのアーティストが探せるのは便利なはずだ。収益はレベニューシェアでもいいし、事前に支払うのでも問題ない。


レビューメディア
電子書籍オリジナルの作品が市場に多く出回るようであれば、レビューメディアが出てきてもおかしくはない。全ての書籍が試読できたとしても、全てをチェックするわけにはいかない。興味の範囲と他人のレビューを掛け合わせて候補に挙がった作品の中から選びたくなるはずだ。

音楽コンテンツをCDラックからiPodに移行させたように、書籍コンテンツも本棚からiPadへ移す日が近い。最近は、プロであるDJでさえ、PCでプレイしているのである。誰が想像しただろうか。
大学教授や学校の先生が、タブレット端末を使って、教鞭をふるっている日が必ず来るだろう。

そんな時代の電子書籍市場が、紙書籍をデジタル化しただけのコンテンツだけが流通している市場とは考えられない。であるならば、レビューメディアは必要になるだろう。


作家のためのレーベル、プロダクション
以前の投稿でも既に触れているため、そちらを参照いただきたい。


ソーシャル・エディティング(HTMLからePubへ)
Blogや各企業が発行するホワイトペーパーなど、WEB上には有意な情報が多い。
ビジネスの場で、知らないことや新たなに調査する時にWEBを利用するのは既に一般的な作業の1つだが、この分野で「ソーシャル・エディティング」が活発化するのではないだろうか?

この領域が極度に発展すれば、世の中から専門書などのジャンルは、大打撃をくらうだろう。
人類の英知は、Googleの高度な検索エンジンにより、日々データベース化されており、それらの英知を今度は人類がさらに編集・編纂していくのである。

1回目の投稿で新書はなくならないとしたが、この分野の発展により、新書は駆逐されるかも知れない。入門書レベルが、この分野との相性が抜群だからだ。

WEBで検索すれば入門レベルは十分に情報を無料で入手可能だが、探す手間と入門書購入費1,000~2,000円を比較して、購入することを選択する人は現在多い。
しかし、ソーシャル・エディティングの場合は、誰かがWEB上の情報を取りまとめてくれているのである。しかも読みやすい書籍の形態になっており、必要な箇所にはLinkが設置されている。もちろん無料だ。
これなら、紙書籍を有料で購入する必要はなくなる。まさしく人類の英知の集合と言えるだろう。

Wikiより読みやすく、より専門性の高いテーマとセグメンテーションでの誕生が望まれる。



まとめ

以上、4回に渡って電子書籍についての現状理解と未来予測を考察してみたが、電子書籍は考えれば考えるほど、おもしろい分野であり、新しい分野だと実感する。

もはや「書籍」ではなく新しいコンテンツとして認識した方がいいだろう。様々なコンテンツ産業の重なる点が、電子書籍なのではないだろうか。全く新しい体験が、ユーザーには今後数年で体験できるようになるだろう。

2011年、各業界が健全な競走によって、電子書籍市場の爆発的な発展を遂げる年にしてもらいたい。また、日本のコンテンツが世界にどんどん流通する時代にしてもらいたい。そのキーはやはり出版社が握っている。
出版社には過去の成功体験に囚われず、新しい書籍時代でも覇者となる気概を持って、ぜひ取り組んでもらいたい。何せ大きなアドバンテージを現時点では持っているのだから。

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