音楽と電子書籍が決定的に違う4つの点

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音楽コンテンツと電子書籍は何が違うか?

4回に渡って、電子書籍について考察をしてみたが、先にデジタル化した音楽コンテンツとは何が違うだろうか?追記として、少し考えてみたい。


CD(デジタル)化された音楽とナップスター
映画「ソーシャルネットワーク」は見ただろうか?この映画では、ファイル共有ソフトであるナップスターの創業者ショーン・パーカーが登場しており、こんな発言をしている。

「やつら(音楽業界)は確かに裁判には勝った。だが、見て見ろ、CDの売り上げはどうなった?」

この発言には、音楽業界(ここでは既得権益者)がショーン・パーカーに破れ、デジタル化へ歩まざるを得なくなった事実を物語っている。


考察の焦点


※追記※
1パラグラフを掲載し忘れておりましたので、追記いたしましす。申し訳ありません

音楽コンテンツと電子書籍には沢山の違いが存在しているが、今回はとりわけ「アナログからデジタルへの移行」に焦点をあてたい。
本来はテキスト情報の方がデジタルに移行しやすかったはず。しかし現実には音楽が先にデジタルへと移行した。その理由を考えてみたい。

違い1 CDという存在

第一の差異は、音楽コンテンツがCDという形態で既にデジタル化されていたことにある。デジタルになっていたから、ファイル共有ソフトを通じてネット上で流通させることができたわけだ。これがアナログのままであったなら、簡単には流通しなかった。

この点、書籍は紙で流通しているため、ナップスターのようなP2Pが出ても大きな打撃には至らなかったのだろう。(コミックはスキャンして画像ファイルとして一部流通しているが)


違い2 プレイヤーの存在

また、音楽コンテンツを消費(聞く)する時には、プレイヤーというデバイスがそもそも必要だ。CD単体で音楽を聴くことはできない。これはCD単体だけでは効果・効用がないことを意味しており、必ずしもCDという媒体にデータがある必要性がなかったことを意味している。

消費者は、WEB上の音楽データをDLして、CD-RやCD-RWに焼いてしまえば、従来のCDプレーヤーで購入したCDと同じように音楽を楽しめたのである。これは急激に移行した大きな要素である。

書籍の場合は、紙そのものにコンテンツが載っており、紙そのもので消費する商品形態であったため、物理的な制約がかかり、デジタルの強みである限界費用が極端に安価な状態で拡散することを防げたのである。



違い3 転売、貸与の存在

音楽CDは趣味が似通っている友人同士で貸し借りすることが多い。また、TSUTAYAなどでレンタルすることも一般的な商品・サービスだ。さらには、少し古いCDであればBOOK OFFに行って安価に手にすることができる。デジタルデータなので少々パッケージが古くても、商品(音楽)そのものが劣化することはない。

これらの事情により、音楽コンテンツは正規購入されない状態で各個人に渡り、その上でパソコンを通じて正規購入と同じ品質のコピーを作成する機会を手に入れた。

これは音楽業界からすれば売上減少の脅威であり、実際にこの流れが起きていた。データのコピーの流れが止まらないのであれば、デジタル市場に参入してそこからも正規に課金する方が収益維持につながると業界は判断したわけだ。
※実際、iTunesの音楽データを正規ルートで他人に貸したり、譲渡したりすることは出来ない。

一方、紙書籍は音楽同様にBOOK OFFの存在が脅威ではあるものの、TSUTAYAなどの存在はない。また耐久性のない紙で製造された媒体であるため、友人間の貸し借りも限界がある。



違い4 マネジメントの存在

また音楽業界は、各アーティストはレーベル、事務所に所属しており、アーティストはそのレーベルのマネジメントによって、CDのレコーディング・発売、ライブ、グッズ販売などが行われている。レーベルは世界中に沢山存在するが、メジャーレーベルは少数であり、超大手レーベルのデジタル化が決まった時点で世の中の流れが決したのも、追加点として言えるだろう。

比較して書籍はどうか。大手出版社だけでも複数存在している他、専門の出版社の存在や、各国によって出版社も異なっており、音楽業界ほど寡占化していない業界である。大手出版社がデジタル化に乗り出しても、体勢を決するには至らないのである。



折れない出版業界

それに対して、出版業界はどうか?紙書籍は当然アナログであり、デジタル化はされていない。よって、出版業界がデジタル化した書籍コンテンツを世に放たない限り、電子化は進まなかった。また、書籍は書籍自体で消費(読む)を行う。単純にコンテンツをデジタル化した場合には音楽と違い、何で消費するか?という問題が出てくることになる。また、書籍はCDほどレンタル、貸与はされておらず購入者の手元に残っている確率が高い為、流動性は低い。加えて、作家は出版社にマネジメントされているわけではなく、作家個人の単位でマネジメント(企業運営)を行っているため、どこかが開始しても影響は少ない。

しかし、ここ数年は事態が変化してきている。
専用のデバイスが登場した。スマートフォンが爆発的に普及した。一部の出版社、作家が試験的に、啓蒙的にデジタル書籍コンテンツを流通させはじめた。日本の出版社は、おりしも出版不況であり、新たな収益源、市場としての価値を検討しはじめている。もうこの流れは止まらないだろう。

これら4点の違い(コンテンツ形式、消費方法、流動性、マネジメント方式)が、音楽業界と出版業界にはあったために電子書籍はデジタル化に遅れたわけだが、既に障壁は取り除かれようとしている。

いずれにせよ、既存領域、既得権益を保持している側は可能な限り、現状維持を望むということだ。限られたプレーヤーで寡占均衡していた状態を、デジタル化という津波で破壊されるわけだから、当然の反応なのだろう。しかし、津波がやってくるのである。いや、もうやってきているのである。

2011年の出版業界は注目である。

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