電子書籍の未来について考える(3/4) どんな未来が来るか?

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電子書籍の未来

電子書籍が一般社会へ普及する頃には、どのような状態になっているだろうか。どのような業界構造、市場構造になっているだろうか。少し予測してみたい。
ちなみに個人的見解として、一般に普及しているのは2013年以降と予測している。

デバイスフリーへの流れ

既にGoogleが開設している「Google eBooks」ではデバイスフリーの方針を採っている。Google eBooksでは、データはクラウドで管理し必要に応じてデバイスに落として読むというものだ。どのデバイスで読むかは関係ない(Kindleなど認めないデバイスも存在するが)。

この流れは今後加速する。どう考えてもユーザーにとって便利だからだ。この書籍データはこの端末で、別の書籍データは別の端末でしか読めないというのであれば、そもそも普及しないだろう。難解な流通構造は支持されない。

どのストアで購入しようが、どのデバイスで読もうが、ユーザーの自由にでき、各デバイス間が同期してくれないと不便で仕方がない。またそうでなければ電子書籍のメリットが1つ消えることになるだろう。

AppleのiPodのような存在が成立するのは、一瞬で市場を構築し、他社の追随を許す前に消費者の心を奪い去ったからである。拮抗する市場では無理であり、最終的にオープンになるか、どれか1社しか生き残れなくなる。WEBのスタンダードはオープンである。デバイスフリーを各社が早々に採用することを期待したい。


レンタルへのニーズ

紙書籍の場合、紙という耐久性の低い消費財であるため、レンタル事業は大きく伸びることはなかったが(漫画喫茶は大きく伸びたが、複合要素があり書籍のシェア事業だけで成長したわけではない)、電子書籍の場合は、デジタルである。何千回、何万回見ようが全く劣化しない。

購入するほどではない書籍やコミックには、レンタルのニーズが、電子書籍が普及した段階で相当数発生するだろう。音楽コンテンツとは違い、一度読んでしまえば(消費してしまえば)、ストックしておく必要のない書籍コンテンツは多い。
さて、このレンタル。既にパピレスが「Renta!」というサイト名で提供をしている。仕組みはこうだ。

・PC、ガラケー、スマートフォンなどデバイスに依存せず利用可能
・ビューワーのインストール不要で、ストリーミング形式で配信
・48時間~無期限で読むことが可能
・1冊当たりのレンタル料金は、100円~500円程度
・支払いは、チケット(1枚100円)を事前に購入して、チケットでの支払い
・IDやPWは共通化されている
・雑誌などの書籍コンテンツも配信

このレンタルサービス、これまでお客様に取り込めなかったユーザーを大量に獲得できる可能性がある。CDやDVDの場合、小売販売されてから一定期間経過後にTSUTAYAなどのレンタルショップでレンタルが開始される。この存在の効果は大きい。購入にまでは至らないアーティストのCDをレンタルする。映画館までは行かない映画をレンタルする、という経験をしたことは誰にでもあるだろう。

著作権者からすれば、それ自体が著作権収入の一部であると同時に、次回作へのプロモーションになるのである。収益源であると同時に潜在顧客へのプロもションツールになっているのである。

これと同じことが電子書籍なら適用可能なのだ。特にコミックや小説など、作家数やタイトル数が多く趣味性の高いジャンルには有効だろう。ちょっと読んでみて、他の作品も購入する、レンタルするという流れは容易に想像がつく。

無論、客単価下落のリスクは伴うが、読者数の拡大から考えれば、作家としては魅力的なのでないだろうか(市場全体の流通総額から見れば、マイナスの可能性があるが)。

作家、漫画家をまとめるエージェント、レーベルの存在

電子書籍普及期には、音楽業界のように作家や漫画家を取りまとめて管理するエージェントのようなものができるのではないだろうか。

電子書籍やコミックは、作家(漫画家)だけではなく、様々な職種の人間が関わる作品となり、出版はWEB上でプロモーションもWEB中心に行うことになる。作品は今まで以上に世の中に流通しており認知度を高めていくのは難しい。

このような中で、作家や漫画家の独立性は維持したまま、映像や画像などの加工を施す部門やプロモーション部門を持ち合わせたエージェントの存在価値は高まるのではないか?では、この役目を誰がするか?
この存在こそ、出版社が獲得しなければならないポジションである。当然、IT企業も参入してくるだろう。出版社がIT企業を買収することもあるかも知れない。
このエージェントに求められるスキルは、編集能力の他に、クリエイティブ、デザイン、システム、コンテンツ管理、プロモーションなど多岐に渡る。現在の関係図からすれば、出版社や広告代理店に競合優位がありそうだ。

出版社の道

電子書籍が普及・一般化した世界で出版社はどのようなポジションを取っているだろうか。

これまでに見てきたように、電子書籍は音楽コンテンツ同様にプラットフォーム(ストア)が大きな覇権を握る市場であり、価格支配権も出版社が独占できる時代ではなくなる。出版という伝家の宝刀は、簡単に誰もが行使できる権利へとなる。
彼らが電子書籍時代に取るべき道は、個人的には2つだと考えている。
出版社が持つ優位性、「編集」「作家とのコネクション」の2つを活かしたポジショニングだ。

◆1つ目の道は「パッケージ販売」
編集者を沢山かかえる出版社は、上述のように「編集能力」と「作家とのコネクション」に強みがあり、それを最大限に活かしたビジネスは、パッケージ販売だろう。

例えば、週刊少年ジャンプなどがパッケージ販売に該当するが、このようなパッケージは人気作家の連載が一同に読めるとあって、読者には支持されやすいコンテンツ形態である。
これらパッケージコンテンツが、月額課金制で電子書籍化されれば、売上が相当確保できるはずだし、新人漫画家のコミックを試験的に入れることも容易く、マーケティングにも適している。また、読者のリアルな人気ランキングも瞬時に把握できる。電子書籍には最適な雑誌ではないだろうか。
(※持って歩くのが恥ずかしいと考えるような人にも支持されるだろう)

作家1人に依存しないコンテンツを準備することで、付加価値を創造すれば、読者は確実に着いてくるだろう。また、これら単行本化される前段階から作品を囲い込むことで、紙書籍化(単行本化)や電子書籍プラットフォームでの単行本化もセットで作家と契約することで、収益は向上するだろう。

◆2つ目の道は、「プロダクション」
上述したレーベル、エージェントのポジションだ。全ての作家が、自ら電子書籍プラットフォームを通じて自身の作品を配信するとは思えない。作品作りに専念したい作家も存在するはずだ。

そういう作家達を、レーベルの中に参加してもらい、電子書籍化作業や、各アーティストの手配、プロモーション、紙書籍化の工程など、一切を出版社が取り仕切ればいい。これまでのノウハウに、新しくはじまる電子書籍のノウハウを組み合わせれば、すぐにでも出来るだろう。必要であれば、IT企業と合弁企業を立ち上げるなり、買収すればよい。


1つ気になる点としては、出版社がこれまで出版してきた紙書籍の電子書籍化に伴う利権問題がある。当然、契約時には電子書籍なんてものは想定されていないため、書面には一切書かれていない。また、小説などの場合は、過去の商慣行から契約書すら存在していないことが多い。
詳細は、下記Jコミの発起人である赤松氏のインタビュー記事を読んでもらいたいが、個人的には、出版社は改めて各作品毎に電子書籍出版に関する契約を締結しなおすべきだと考える。

漫画家・赤松健×小説家・桜坂洋 対談(前編) 作家から見た「絶版」

なぜか?それは出版社が過去の出版物すべてを電子書籍化するわけがないからだ。ある程度、売上の見込める作品は電子書籍化するだろうが、見込めないものは過去の契約や不確実な権利を盾に電子化を拒むだろう。
それは、作家にとっても、電子書籍市場にとっても大きなマイナス要素である。作家が自由に電子化する権利を保有するべきだ。出版社は過去の出版物の電子化の権利を再度作家と話し合うべきだ。

アマチュア作家旋風

誰もができなかったHTMLを簡単にしたことで、爆発的に普及したBlog。特に日本は普及し、全世代でBlogを書くことが当たり前の時代。日本人はつまり、文章を書くことが好きであり、情報を発信することが好きな人種なのである。

誰もがすぐに作家になりWEB上で公開できる時代には、Blogではなく電子書籍化する人がどんどん出てくるだろう。まず出版社に認めてもらう時代から、直接ユーザーに問いかける時代がやってくるのである。
既に、アマチュア作家で1,000人以上にDLされた電子書籍を出版している人は幾人もいるのである。
従来の事業構造では収益ベースに乗らなかったようなものも、デジタルの世界では出版可能だ。これからは、ますます多様な書籍コンテンツがWEB世界で流通することになるだろう。
直木賞作家よりも売れる作家、コンテンツが出てくる時代になるかも知れない。既存の流通構造ではない流通形態がそれほどに大きくなるだろう。

出版社は既に人気が出ている電子書籍コンテンツを後追いで紙書籍として出版するようになる。ソーシャルメディアやマイクロブログなどが発達し、人々のコミュニケーションが物理的制約を越えて自由になったことにより、既存権力(メディアや出版社)にも勝る力を得ているのである。
(先日のグルーポンでのおせち事件はまさにその例であり、Twitterなどでは事前に広まっていた内容が、後追いとして、各種ニュース番組で取上げられたのである)


「貸す」「シェアする」という行為

紙書籍の場合は、気に入った書籍を友人・知人に貸すということは日常的に行われてきた(事業としてではなく)。また、学校や職場内で、おすすめ書籍として貸し出されることも日常的に存在している。さらには、図書館自体は自治体内に住む住民サービスとして書籍を貸し出している。
これらはデジタル化された場合、どのように対応するかという問題が発生する。
デジタルコンテンツの場合、個人のアカウント情報に紐づいて、コンテンツが配信・蓄積されるため、別のアカウントからの閲覧・利用は基本的にできない。
iTunesでも、他人のアカウントとのコンテンツのやり取りは当然できない。

既にAmazonは解決を試みようとしている。一定期間の間、他人のアカウントに貸与することができるサービスを提供の計画を2010年10月に発表している。貸与している期間、購入者は閲覧ができなくなるのは、リアルと同じ仕組みだ。ただ、一部の書籍に限定される見込みだ。

この仕組みが一般に採用・普及すれば、電子書籍はさらに広まることになるだろう。
しかし、この概念はレンタルとカニバリゼーションを起こす可能性が高く、企業は採用しないだろう。
何故なら、この仕組みが普及した暁には、読者SNSのようなものが現れ、一定数の書籍を購入すれば、全員でシェアできてしまうからだ。電子書籍ならではの制限は少なからず必要になるのだ。



さて、ここまで3回に渡って、電子書籍の現状・変化・未来について考察を続けてきたが、次回は電子書籍市場が活性化することで新たに立ち上がるであろうビジネスについて検討をしてみたい。
既にスタートアップで立ち上がっている事業もあるかも知れないが、個人的に「こんなビジネスはありなのではないか?」と思うものをいくつかピックアップしてみたい。

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