電子書籍の未来について考える(1/4) 電子書籍の現状把握

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今回は、電子書籍に関する現状を踏まえた上で、以下の点を考察してみたい。
問1:電子書籍化されることで、何がどのように変わるのか?
問2:電子書籍の未来はどのようなものか?
問3:未来にはどのようなビジネスが創出されているのか?


また、長文になるため4回に分けて書くことにした。
個人的な見解が多分に含まれているため、「それは違う」というご意見があることは容易に想像がつくところだが、ご容赦いただきたい。また間違いがある場合は、ぜひご指摘いただきたい。



電子書籍市場の現状について

2010年が電子書籍元年だと多くのメディアで書かれていたが、本当の変化はこれから起こる。2010年は幕が明けたに過ぎない。

2010年は各企業が本格的に電子書籍市場に参入を開始した年であり、メディアが爆発的に取上げた年であり、消費者が少し意識し始めた年である。コンテンツがデジタル世界に流れはじめ、消費者が利用するには、まだ数年の時間が必要になるだろう。一般に普及している頃の可能性について言及する前に、まずは現状を改めて整理して理解しておきたい。


参入せざるを得ない出版業界

予てよりの出版不況で出版会社は苦しい。男性向け雑誌は特に売れていない。ニッチな雑誌もどんどん廃刊に追い込まれている。有名な週刊誌も廃刊になった。

なぜか?複層的な要因があるものの、最大の理由は相対的に価値が下がったからである。雑誌は話題の提供という点で、ネットメディアやSNSに主役の座を奪われた。便利系の雑誌(テレビ番組や地域情報を発信する雑誌)もネット上に無料で情報が流れており、存在意義を失くしつつある。
ネット化が進むにつれて、コンテンツのメインフレームはWEB上に移行しつつあるのだ。

また若者は、携帯電話という名の情報端末で情報探索やコンテンツを消費したり、超個人化した社会で「つながり」を求めるようになった。個人消費が基本のアナログな紙書籍との相性は悪くなり、携帯やPCでの時間消費に支配されるようになった。

そこにAmazonがKindleをアメリカで投入した。日本では携帯電話でコミックや小説が配信され始めた。
メーカーは、電子書籍市場の拡大を感じ、専用端末を開発・販売しはじめた。
Appleは、iPhoneに電子書籍流通の場としてiBooksを投入した。
Googleは、アメリカ国内の図書館や大学の書籍データをスキャンしはじめた。
IT企業は、電子書籍市場がもつ可能性にひかれて、様々なサービスを画策しはじめた。
一部の作家、漫画家がその可能性に気づき、新しい動きをはじめた。
電子書籍市場の幕開けである。市場は徐々に広がりを持ち始めた。

そして今まさに、黒船3隻(Amazon、Apple、Google)が上陸しようとしている。黒船陣営はKindle、iPhone/iPad、Androidという飛び道具で電子書籍の流通基盤(デバイス)を既に築きつつある。開国への外圧は日増しに強くなるだろう。

出版業界は、業界不況、モバイル端末のスイッチ、流通基盤の整備、外圧など、内外部両面での市場環境の変化により参入をせざるをえない状況になっている。





30を超える電子書籍販売ストアが誕生

既に多くの業態のプレーヤーが「書籍版iTunes」の座を狙ってストアを開設している。確認できるだけで30以上が存在。出版、印刷、書店、メーカー、メディア、キャリア、ITと多岐に渡る企業が続々と参入している。音楽コンテンツ市場の経験で、流通を押さえることが最大の利益につながることを知っているからだ。

メーカーやキャリアは端末に合わせて専用のストアを開設しており独占状態を画策しているが、果たして思惑通りに事が運ぶかどうか。キャリアは、ガラケーで築き上げた高収益体制を電子書籍でも構築したい狙いだ。
大手印刷会社や大手書店は、電子書籍市場でも存在感を確立するために、電子化への対応にアグレッシブに動いている。彼らは自らの事業の柱を根幹から揺るがす事態に真剣に取り組みを開始し始めている。
IT企業やデベロッパーは、チャンスとばかりに参入可能な糸口を見つけて個性豊かなサービスを投入しはじめている。

出版社は完全に出遅れている感があるが、徐々に参入へと動き始めている。出版権を盾に守ろうとしているが、変化に乗り遅れた企業は常に淘汰されるという事を認識しているだろうか。


普及しはじめたデバイス

スマートフォンの販売が、既に携帯電話販売台数の約半数を占めるに至っている。docomoやauが相次いで投入したことが大きな貢献要素となっており、スマートフォンは一部のデジタル機器ファンやAppleファンだけのものではなくなった。そう、一般大衆向けに発売される時期になっているのである。(デジタルやWEBのサービスはもはやデジタル・オタクのものではなくなっている)

またSONYから電子書籍専用リーダー(電子ペーパー)や、SHARPのタブレット端末(GARAPAGOS)が発売された(当然両社ともにストアも開設している)。docomoもタブレット端末市場に参入している。
KindleやiPadにはじまった流れは、今後も止まらないだろう。

この流れは2004年に電子書籍が一度立ち上がりかけた時とは違う。各社がデバイスを投入したことに加え、iPadが国内でも100万台近く販売されている。iPhoneをはじめとしたスマートフォンが数百万台売れているのだ。配信すれば収益化可能な状態がすでに消費者の手元に存在しているのである。


動き出す作家、漫画家達

村上龍氏が設立した「G2010」や、赤松健氏が立ち上げた「Jコミ」など、既に作家は新しい波に向けて動き始めている。売上・収益はこれからだが、確実に来る未来に向けて着実に成果を残している。

G2010は、村上氏が株式会社グリオと共同出資して電子書籍専門の子会社を設立し、自身みずから「歌うクジラ」を電子書籍(iPadアプリ)としてリリースした。この「歌うクジラ」は、紙書籍でも発売されたが、電子版には、インタラクティブな要素や坂本龍一の音楽が使用され話題になった。

▼G2010
http://g2010.jp/

▼「電子書籍は文字文化の革命」―作家・村上龍さんが電子書籍会社設立
http://plusd.itmedia.co.jp/pcuser/articles/1011/04/news093.html


また、Jコミは、赤松健氏が既に絶版になっている人気コミック「ラブひな」をPDF形式で無料で解放したことで大きな話題となり、DL数もサイト累計で300万件となっている。この無料PDFには、広告が数ページ挟みこまれており、ここから収益化を図るという。赤松氏は、絶版になっている過去の作品をWEBを通して無料で配布することで、心血注いで制作したコミックを再び流通させたいとの思いで始めたそうだ。

▼Jコミ
http://www.j-comi.jp/


このような流れは、当然今後も起こってくるだろう。作家、漫画家は自ら消費者とつながり、直接販売することが可能になるのだ。無論その分、手間はかかるが収益へのインパクトは段違いに大きなものになる。
そして何より、作家と消費者が作品を通じて直接コミュニケートできるようになるのである。


既に動いているデベロッパー、IT企業

とてつもなく大きな可能性を秘めた電子書籍市場。ビューワー、関連アプリ、自社コンテンツ制作など、千載一遇のチャンスに各社は参入を検討・実施している。
ここでは、10年以上前から電子書籍市場で勝負しているパピレスや、個人が自由に電子書籍化、有料販売できるパブーを有するペパボなどが大きな存在感を放っている。

パピレスは、1995年より本格的に電子書籍ストアを開始した日本の電子書籍での草分け的な存在だ。現時点で20万点の電子書籍を取り扱っており、500社もの出版社との契約を結んでいる。また、電子書籍のレンタル販売や、各メディアへの卸業務も行っており、各ストアを一歩リードしている存在である。

▼株式会社パピレス「平成23年3月期 第2四半期決算説明会資料」
http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?template=ir_material&sid=7112&code=3641


一方パブーは、今後のアマチュア作家の台頭を読んで、2010年6月に早々にサイトを立ち上げた。このWEBサービスでは、誰もが自由に無料で電子書籍を作成できるばかりか、パブー内で無料・有料で販売することが可能だ。有料で販売できた際には、パブー側に売上金額の30%を支払うだけでよい。同社はこのサービスで、2010年WISH2010で「WISH2010大賞」「毎日.jp賞」を受賞している。

▼WISH2010
http://agilemedia.jp/wish2010/

▼株式会社paperboy&co.「2010年12月期第3四半期 決算説明会資料」
http://ir.paperboy.co.jp/presentation/20101112p.pdf


他にも斬新なサービス提供を開始しているスタートアップ企業も存在しており、今後ますます活性化していくものと思われる。


市場規模は2015年に2400億円

野村総研が発表しているデータ(2010/10/20)だと、2015年には約2500億円にまで成長すると予測しており、端末の累計出荷台数も同年で1400万台としている。またIDCの調査では、専用端末以外も含めたメディアタブレットとしては2014年時点で4600万台が出荷される見通しだという。

この数字がどれくらいかと言うと、2008年時点での音楽WEB配信事業の市場規模が約2100億円である。音楽WEB配信事業とは、着うたなどを指しているが、市場が立ち上がってからわずか数年で、着うたと同じ市場規模に到達すると見込まれている。

また専用端末の出荷台数1400万台と言えば、9人に1人は数字上、専用端末を持っている計算になる。都市部や若年層などセグメントを行えば、その普及率は格段に高い数値となっているだろう。





ダークホースか?百度の電子書籍共有サービス
中国の百度(バイドゥ)が、電子書籍の共有サービスをはじめている。しかし、このサービスは波乱を呼びそうだ。

詳しくは、下記リンクの記事を読んでもらいたいが、著作権などは全く無視したサービス。しかしながら、P2P同様、モラルハザードが起こるのは必至。こういう事態になるのも、国内主要出版社が真っ先に取り組まなかったからだろう。
出版社に責任があるわけではないが、ニーズが膨れ上がってモヤモヤしている状態の中で、こういうサービスが世に登場することは想像できたはずだ。
健全で公平な発展ができる電子書籍市場の立ち上がりに期待したい。

▼fladdict「百度の電子書籍サービスが無法アップ状態でヤバそう」
http://fladdict.net/blog/2011/01/baidulibrary.html




日本の出版業界は、2011年受け身になることなく積極的に電子書籍に取り組んでもらいたい。出版各社が本腰を入れて取り組むことで業界は一気に加熱するだろう。逆にトロトロやっていると、黒船達があっという間に市場をかっさらって行ってしまうだろう。
守ることを考えず、攻めに転じる年にしてもらいたい。

さて、次回はこれら電子書籍市場の現状を踏まえた上で、電子書籍市場が立ち上がることで何が変わるのか?を考察してみたい。

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